1891年創業の仏高級革靴「ジェイエムウエストン(J.M. WESTON)」が進化を続けている。2018年1月に、アーティスト活動をしながらガリエラ宮パリ市立モード美術館の館長を務めていたオリヴィエ・サイヤール(Olivier Saillard)をアーティスティック・イメージ&カルチャー・ディレクターに招へい。既存顧客よりも若い層にアプローチするため、創業以来培ってきたクラフツマンシップにアーティスティックな一面を加えてブランドイメージの刷新を図っている。
1993年にオープンした同ブランド日本1号店となる青山店が、コンセプトブティックとして今年1月にリニューアルした。明るく開放感のある空間には、ミュージアム風の什器や木製家具が設置され、来店客を、サイヤールが幼少期に夢中で通った博物館の記憶に誘う。また音響には名機といわれる1979年製のアンプを使用するなど、視覚からも聴覚からもブランドが発信する世界観を感じられる。
同店のオープンに合わせてフランスから来日したサイヤールに、現職での具体的な役割やミッション、今後の目標などを聞いた。スニーカーに熱狂する若い世代を振り向かせるために、今、老舗ブランドに必要なこととは。
リニューアルした青山店のイメージは?
オリヴィエ・サイヤール「ジェイエムウエストン」アーティスティック・イメージ&カルチャー・ディレクター(以下、サイヤール):子どもの時に考古学を夢中で学び、博物館によく通っていました。鳥の羽根や植物が古い引き出しやガラスケースの中に展示されているのを見るのがとても好きでした。青山店の木製家具は、自然博物館の展示ケースからインスパイアされています。特に、大きなショーケースが気に入っています。19世紀の博物館のショーケースをイメージし、内側を白くしたことでシューズがとても引き立ちました。床と同じ模様にしたテーブルも好きです。
現職に就任して1年が経った。ブランドでの具体的な役割は?
全てのコレクションのデザインに関わっており、一番時間をかけています。ブランドの定番品をベースに、今っぽい形にしたり、新たな表現を加えたりして商品を開発しています。ソールを3層重ねたトリプルソールのローファーが代表例でしょうか。また今回の来日で披露したスペシャルオーダーのような、デザイン性が強い特注品も手掛けています。伝統を大切にしながら現在の感覚を加えていく。新しい言葉を作っていくようなイメージですね。またシューズのコレクションに合わせてレザーグッズやラゲッジを作ったり、ウィメンズの新作も進めたりしているので、近々お見せできるはずです。
デザインのほかに関わっていることは?
靴のデザインのほかに、店作りとイメージ作りも担っています。私の最大のミッションは、「ジェイエムウエストン」を22世紀に導くこと。ブランドは1891年に生まれ、20世紀をたくましく生きてきました。そして21世紀も流行に抗いながら、生き続けないといけない。そのためには既存の顧客以外に若い層の評価も必要です。例えば、いいワインは年齢に関係なくみんなに愛されますよね。「ジェイエムウエストン」の良さも、今の若者たちに伝えられるはずです。
現職に就く前と後で、ブランドの印象は変わった?
とても変わりました。歴史が長いので、私にとっては当たり前のように存在するブランドでした。それとイギリスやアメリカっぽいイメージが強かった。でも現職に就くにあたってアーカイブを調べていると、“シグネチャーローファー”と“ゴルフ”以外に、アイコンモデルが豊富にあることを知りました。しかも全てフランスで生まれたノウハウで作られている。ここまでの歴史と技術を持っているところはフランスではほとんどないと思います。
その歴史と技術をどう現代に伝えていく?
詩的な側面を取り入れて伝えていきたいです。美術館の館長を務めていた頃から、詩的な感覚を取り入れて多くのパフォーマンスを演出してきました。物事を少し違った角度から見てみたり、エンターテインメント性を加えたりすることが私の特徴だと考えます。その経験を生かし、「ジェイエムウエストン」の新作発表やイベントも、来てくれた人が楽しんでくれるような仕掛けを用意しています。
若い世代の支持を得るために必要なことは?
革靴は環境に優しいんだということをブランドとしても強く発信していくべきです。最近の若い世代は、単に消費者という感覚ではなく、着るもの、食べるもの、住む環境と総合的に意識が高い。私が若い頃はそこまで深く考えずに消費をしてきましたが、彼らはサステイナビリティーの視点も消費の判断基準の1つに取り入れています。まだ多数派とはいえませんが、これからも広がっていくはずです。われわれはエコやサステイナブルといった言葉が生まれる前から、環境に配慮したモノ作りを行ってきました。高価ではありますが、革靴は修理しながら一生履けます。長く使えて、かつラグジュアリーであるということをただ真面目に伝えるのではなく、少しのファンタジーを添えて主張していきたいですね。