2019年7月4日、つまり新しいバットマン(ベン・アフレックではない)が発表された直後に、私と妻はポーランドで結婚式を挙げた。アメリカでの式に出席できなかった家族も一緒に祝ってくれた。その夜も、そして旅の間中ずっと、私の腕にはGMTマスター IIがあった。たとえこの時計が100万ドルになっても(そのときには妻がきっと何か言うと思うが)、手放さないと決めている。私はこの時計で本当の思い出を作っていたのだ。
やがて、HODINKEEで新しい仕事、新しいキャリアをスタートさせるときが来た。私が着任したのは2020年の3月、ニューヨーク(そして世界)が閉鎖された週だった。しかし、オフィスでの短い時間の間に、私はデスクに座って手首のバットマンについての最初のストーリーを書き始めた。コール・ペニントンが着けさせて欲しいと言い、ケースやブレスレットに私がつけた傷を見て、それにお墨付きをくれたことを思い出す。彼は「君は本当にこれを身に着けているね」と言い、私は「そのために買ったんだ」と答えた。そして、実際その通りだったのだ。
今年の4月、ロレックスはツートンのロレックス エクスプローラーを中心とした新製品を発表し、話は元に戻る。そのなかには、GMTマスター IIシリーズのアップデートも含まれていたのだ。オイスターブレスレットが復活した。基本的には全ての面で私の時計と似ている。ディスコンした時計を復活させるというのは、いかにもロレックスらしくないことだが、それが実現した。その結果、私の時計の価値が下がるのではないかと思ったのを憶えている。
その考えは数日間、私の頭の中にあった。私はこの時計を長年にわたって鑑賞することに慣れていた。二度と生産されない時計を所有することにも慣れていた。一方で、価値が下がれば、私がずっと欲しかったものが手に入る。罪悪感のない、「もしかしたら」のない時計。
今日現在、116710BLNRの高価格はまだ続いている。Crown & Caliber(時計売買サイト)では、複数のモデルが1万8000ドル(約196万円)以上で出品されているが、正直なところ、私にはよくわからない。ただ、傷だらけのバットマン/ブルーザー/ブルーブラックのオイスターブレスレット付きGMTマスター IIは、家族や、夢のある仕事を始めたことを思い出させてくれる時計だということはわかっている。絶対に売らない時計だ。信じていい。